大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(行ケ)244号 判決

奈良県北葛城郡当麻町大字加守646番地の2

原告

株式会社吉川国工業所

代表者代表取締役

吉川利通

訴訟代理人弁理士

福島三雄

野中誠一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

市村節子

吉田親司

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第10453号事件について、平成8年8月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年6月16日、意匠に係る物品を「整理かご」(以下「本件物品」という。)とし、形態を別添審決書写し別紙第一とする意匠(以下「本願意匠」という。)について、本意匠を意願昭63-21206号意匠とする類似意匠の意匠登録出願をした(意願昭63-23998号)が、平成4年5月6日に拒絶査定を受けたので、同年6月1日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成4年審判第10453号事件として審理したうえ、平成8年8月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月24日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願意匠は、その出願日前の昭和60年7月15日に意匠登録出願された昭和60年意匠登録願第30340号(平成2年2月9日に拒絶査定がなされ、その後その査定が確定した。)の意匠であって、意匠に係る物品を「収納かご」とし、形態を別添審決書写し別紙第二とする意匠(以下「引用意匠」という。)と、意匠に係る物品が使用目的及び使用方法を同じくする同種のものと認められ、その形態が類似し、最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないから、意匠法9条1項の規定により、意匠登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品が使用目的及び使用方法を同じくする同種のものと認められること、両意匠の形態における共通点の認定のうち、本願意匠の堤げ手が「略丸棒状のもの」(審決書3頁18~19行)とする点を除く部分、両意匠の差異点の認定のうち、本願意匠の手掛け孔が「小さい」(審決書4頁9行)とする点及び上縁の中よりに設けられた凹みが「極浅い」(審決書4頁14行)とすう点を除く部分は、いずれも認めるが、その余は争う。

審決は、その出願人が自ら創作したものではなく先願の地位を有しない意匠を引用意匠としており(取消事由1)、仮にそうでないとしても、引用意匠の創作性のある部分に限って先願の地位を認めて類否判断を行うべきであるのにこれをせず、引用意匠の認定を誤り(取消事由2)、また、本願意匠の認定を一部誤って引用意匠と対比しており(取消事由3)、その結果、類否判断も誤ったものである(取消事由4)から、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(引用意匠の先願性の認定の誤り)

引用意匠は、その出願前に原告が製造・販売した製品の形態を模倣しわずかに改変を加えた程度のものにすぎないから、その出願人が自ら創作したものとはいえず、先願意匠としての地位を有しない。

すなわち、原告は、昭和59年6月18日、意匠に係る物品を「洗濯物収納かご」とする意匠(以下「原告先行意匠」という。)について意匠登録出願をし(意願昭59-25221号、登録第779787号意匠)、この原告先行意匠を実施した商品を商品名ランドリーバスケットとして製造し、卸売業者を通じて全国に販売したところ、大好評を得て、同商品は、昭和59年10月に大阪デザインセンターの選定商品として取り上げられ、引用意匠の出願日(昭和60年7月)には、同業者間で広く知られていた。ちなみに、引用意匠の出願人は、原告と同じ近畿の東大阪市島町に本店が所在し、原告と同じプラスチック製の製品を製造・販売する同業者である。

そして、原告先行意匠と引用意匠を対比すると、かご体の横幅、高さ、奥行きの比率、かご体の全体形状、かご体の周面に形成された正方形の角孔の段数・列数を共通するもので、わずかに堤げ手の本数及び開口部の上縁の形状が相違するにすぎず、ほとんど同一の意匠を構成している。しかも、引用意匠とほぼ同じ意匠が原告先行意匠の類似意匠として昭和60年9月27日に出願され、平成元年11月20日に登録第779787の類似3号として意匠登録されている(甲第8号証)のであって、引用意匠と原告先行意匠との差異は微差にすぎない。

したがって、引用意匠は、原告先行意匠を見て、それをほとんどそのまま自らの意匠としたものであり、その意匠出願に先願意匠としての地位は認められるべきではない。

なお、原告(審判請求人)は、審判において上記の主張を行っていないが、審決が引用意匠に先願としての地位を認めている以上、審決の取消理由として上記の点を本件訴訟で主張できるものである。

2  取消事由2(引用意匠の認定の誤り)

引用意匠が、仮に先願の地位を有するとしても、出願人が自ら変更を加えた創作性のある部分に限って先願意匠の地位を認めるべきであるところ、引用意匠において、原告先行意匠と唯一相違し創作性のある部分は、堤げ手の取付態様と開口部の上縁の形状のみであるから、かご体の形状についてではなく、この部分に限定して先願意匠の地位を認めるべきである。

被告主張のように、上記堤げ手の取付態様と上縁の形状が周知形態であるとすると、引用意匠は、全ての形態において先願としての価値のある創作された意匠でないことになるから、その意匠により本願意匠が拒絶されるのはより一層不当である。

3  取消事由3(本願意匠の認定誤り)

本願意匠の堤げ手には、断面U字溝が形成されており、溝幅は直径の略1/3であるから、審決の認定するように「略丸棒状のもの」(審決書3頁18~19行)ではない。この堤げ手の部分は、直接人の手のひらの当たる部分でもあるから注意を惹くところであり、しかも、溝の両側壁が平行をなしていること、溝の底が有底であることから、溝が断面U宇形であることは、通常の使用態様によって容易に認識できるものである。被告は、溝幅の周面に対する比率が、円周の略1/7であることをもって、わずかの幅であるとするが、堤げ手を看者が見る場合、堤げ手の全周を認識した上で溝幅を認識するものではなく、堤げ手の直径との対比によって溝幅を認識するものである。

また、本願意匠のかご体の手掛け孔は、審決の認定するように「小さい」(審決書4頁9行)わけではない。意匠登録願書(甲第2号証)の添付図面(以下「本願図面」という。)中の参考図にも示すとおり、この手掛け孔は、手をゆったりと掛けることのできる大きさであり、「小さい」とはいえないものである。

さらに、本願意匠の開口部の上縁の中よりに設けられた凹みは、審決の認定するように「極浅い」(審決書4頁14行)わけではない。凹みは、本願図面中の底面図及び参考図によって明らかなとおり、深い部分では上縁の幅の半分以上に及んでおり、「極」と強調される程度ではない。

4  取消事由4(類否判断の誤り)

本願意匠は、横幅に対して高さが約1:0.6のかご体の上縁の上に、倒した堤げ手がぴったりと載置されるように形成され、かご体の短手方向の上縁には、中よりに浅い凹みを設けて、堤げ手を倒した状態において、堤げ手がこの凹みの部分においてはみ出し、上縁の上にぴったりと載置した堤げ手にも容易に指を掛けることができるように形成され、しかも、この凹みの少し下の部分には、手掛け孔が空けられ、堤げ手には断面U字形の凹溝が側方から穿つように形成されている形態を有するものである。

したがって、本願意匠は、格子状の角孔を有するかご体において、堤げ手がぴったりと上縁の上に載置されることにより、すっきりした印象を与えるとともに、堤げ手を上縁の上に載置したとき、堤げ手の握り部に当接する上縁部分に浅い凹みを設けてあることによって、堤げ手に指を掛けやすく持ち上げやすいとの印象を与え、しかも、この凹みの少し下の部分に手掛け孔が空けられていることによって、かご体を持ち上げることも容易になし得るとの印象を与え、さらに、堤げ手の側面に断面U字形の凹溝が穿つように形成されていることにより、堤げ手を右に倒したときと左に倒したときとで別異の外観を与えるなど、変化に富んだ印象を与えるものである。

これに対し、引用意匠の堤げ手は、回転中心がかご体の前後の上縁の下部において取り付けられ、回転中心から握り部までの長さが、かご体の側縁までの距離より短く形成され、しかも、握り部が弧状に形成されているため、堤げ手を両側に倒すと、堤げ手は上縁に載置されず、斜め上方向に傾斜して止まるものである。

したがって、引用意匠からは、堤げ手の回転中心がかご体の上縁の下部に取り付けられていることから、堤げ手がかご体上部を跨がって架け渡されているとの印象を与え、堤げ手を傾けたときに、これがかご体の上縁に引っ掛かって斜め上方向に傾斜して止まるとの印象を与えるものであり、堤げ手自体は、丸棒状のものとの印象を与える。

以上のとおり、本願意匠は、独自の特徴を有するものであり、引用意匠の当該部分とは大きく相違し、看者に別異の外観を与えるのに対し、審決の認定した本願意匠と引用意匠の共通点(審決書3頁1行~4頁2行)は、出願前に広く知られた形態であって、格別看者の注意を惹くところではないから、本願意匠は引用意匠に類似するものではない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

原告が取消事由1として主張する点は、審判段階では全く主張していなかったものであり、審理・判断の対象とされなかった事項であるから、審決取消訴訟において新たに主張することは、本来許されるべきものではない。

仮にこのことが許されるとしても、引用意匠と原告先行意匠とは、堤げ手の本数、位置及び形状や、かご体の上縁の形状等、各部に差異が認められ、引用意匠が原告先行意匠に対して何らの創作性のない、いわゆる同一の意匠であるとすることはできず、引用意匠がいわゆる冒認によるものであるとする原告の主張は、根拠がない。また、原告先行意匠の類似意匠の出願は、引用意匠の出願後であるし、類似意匠登録がなされたことにより、引用意匠の創作性がなくなるわけではない。

そして、引用意匠について、拒絶査定がなされ、これが確定したものであっても、その出願が取り下げられたり無効とされたものでないことは明らかであるから、先願の地位を失うものではなく、審決が、引用意匠に先願の地位を認め、類否判断をした点に違法はない。

2  取消事由2について

本願意匠が引用意匠に類似するか否かの判断は、形態を全体として観察してなされるものであり、決してその一部に限定してなされるものではない。また、この類否判断は、引用意匠自体又はその各部の態様が、その出願前に公知又は周知であるか否かに直接左右されるものでなく、あくまで、本願意匠が引用意匠に全体として客観的に類似するか否かの判断である。

したがって、引用意匠について、仮に、かご体の形状がその出願前に公知であったとしても、これを類否判断から除外して判断することは妥当でなく、審決が、両意匠を形態全体として対比観察し類否判断した点に違法はない。

原告の取消事由2の主張は原告独自の見解にすぎず、理由がない。

3  取消事由3について

本願意匠の堤げ手は、本願図面によれば、丸い棒状体を基本とし、その上で、周面の一部に二次的に溝を形成したものであり、その溝幅(開口幅)は、円周の略1/7を占めるにすぎず、その周面の大部分がそのまま外側に表出するものであり、この部分が圧倒的に看者の視覚を捉えるものである。

そして、この堤げ手は、掌の中で2本を軽く握れる程度のさほど太くないものであり、溝も、形態全体の中で見ると堤げ手に沿った一条の筋程度にしか認識できないものであって、断面U字溝が形成されていることは、実際に堤げ手を切断して断面を注視して始めて認識できる程度の軸内の態様である。

したがって、審決が、本願意匠の堤げ手について、「略丸棒状のもの」(審決書3頁18~19行)と認定したことに誤りはない。

また、意匠の各部の大きさの認定は、意匠全体を観察し、その形態を視覚を通じて捉えてなされるべきものであり、各部を抽象的に全体から切り離してなされるものではない。そうすると、本願意匠の手掛け部の大きさの認定は、原告が主張するように、人間の手との関係でなされるものではなく、上面を開口した略直方体状のかご体全体の大きさに対してなされるべきものである。

そして、この全体観察によれば、本願意匠の手掛け孔は、かご体の幅、深さに対して、いずれもかなり幅狭のものであり、両側面に対する面積比についても、決して「大きい」といえるほどのものではない。

したがって、審決が、本願意匠の手掛け孔について「小さい」(審決書4頁9行)と認定したことに誤りはない。

さらに、本願意匠の開口部の上縁の中よりに設けられた凹みを認識するに当たり、凹みの輪郭は、上縁の終端として捉えられるべきであるところ、本願図面中の、構成比率を正確に示す正投象図法により作成された「底面図」によれば、凹み幅は、上縁幅のせいぜい略1/5であり、この「深い部分」を横断する「A-A断面図」においては、凹みは、拡大して始めて認識できる程度に浅く表されているにすぎない。

本願図面中の参考図は、形態の一部を概略的に表現した図面であり、意匠の理解を助けるために必要があるときに提出されるものであって、各部を分かりやすく誇張して表現することも一般的であることから、この参考図を基礎として凹み幅を特定することは妥当でないが、この参考図を参照しても、凹み幅は上縁幅のせいぜい略1/4にしか表されておらず、原告の主張するように上縁の幅の半分以上に及ぶものではない。

したがって、審決が、本願意匠の開口部の上縁の中よりに設けられた凹みについて、「極浅い」(審決書4頁14行)と認定したことに誤りはない。

4  取消事由4について

原告が主張する、本願意匠のかご体の上縁の上に倒した堤げ手がぴったりと載置されるように形成された態様は、この種のかご体の堤げ手として、また日常使用される各種容器の堤げ手として、従来からごく普通に見られる態様であり、このことは本願意匠出願前に頒布されたプラスチック製の各種家庭用品の販売用カタログ(乙第1~第3号証、以下、「本件カタログ1~3」といい、乙第4~第7号証のカタログを「本件カタログ4~7」という。)からも明らかであるから、何ら新規なものではなく、格別評価することはできない。

一方、引用意匠についても、堤げ手の取付位置は上縁直下で、かご体の上部全体に跨がるほどのものではなく、堤げ手を傾け上縁に掛かる状態においても、わずかに斜めを呈するにすぎない。

また、本願意匠の上縁の凹みは、堤げ手を上縁の上に載置したときには、堤げ手の下面にそのまま重なり、看者が普通に目にする俯瞰視ではほとんど見えないし、堤げ手を起こしたときに表れる凹みも、両端がなだらかに、全体が直線状に形成された「極浅い」もので、形態全体として見ると目立たない。この種日用品の手掛け部において、この下に縁部が当接する場合、縁面に浅い凹みを設けて指を掛け、持ち上げやすくする手法も、本件カタログ4(乙第4号証)によれば、従来からごく普通に行われており、格別の創作性が認められず、特徴としても評価できないものである。

本願意匠の堤げ手は、前示のとおり、丸い棒状体の周面の部分が圧倒的に看者の視覚を捉え、溝は、形態全体の中では堤げ手に沿った一条の筋程度にしか認識できないものである。しかも、本件カタログ1、2(乙第1、第2号証)によれば、プラスチック製の各種容器の堤げ手においては、本願意匠と同様に、堤げ手に沿って溝を形成したものは、従来からごく普通に行われており、新規な特徴といえず、看者が注意を払うほどのものではない。

さらに、本願意匠の手掛け孔は、本件カタログ5~7(乙第5~第7号証)によれば、孔の形状、大きさ、位置、態様等すべて従来のものに比して格別特徴のあるものでない。そして、これを形態全体の中で捉えてみても、手掛け孔の縦横が略正方形状の小孔と方向が揃い、その縁取りも低く、さほど目立つものではない。したがって、これは、両意匠を別異とするほどの新規な特徴ではなく、類否判断を左右するほどのものではない。

以上のとおり、差異点に関する原告の主張には、いずれも理由がなく、審決の認定する差異点はいずれも類否判断に与える影響が微弱であるから、この点に関する審決の判断(審決書8頁7~10行)に誤りはない。

また、審決の認定したした本願意匠と引用意匠の共通点(審決書3頁1行~4頁2行)が、出願前に広く知られた形態であるとする原告の主張には、理由がなく、仮にこの共通点の一部に広く知られた態様が含まれるとしても、この共通点が必ずしも看者の注意を惹かないわけではない。

したがって、審決の「前記共通するとした・・・これら共通する態様が両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところと認められる。」(審決書8頁11行~9頁9行)との判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

審決の理由中、本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品が使用目的及び使用方法を同じくする同種のものであること、両意匠の形態における共通点の認定のうち、本願意匠の堤げ手が「略丸棒状のもの」(審決書3頁18~19行)とする点を除く部分、両意匠の差異点の認定のうち、本願意匠の手掛け孔が「小さい」(審決書4頁9行)とする点及び上縁の中よりに設けられた凹みが「極浅い」(審決書4頁14行)とする点を除く部分は、いずれも当事者間に争いがない。

1  取消事由1(引用意匠の先願性の認定の誤り)について

特許庁の行った審決に対する取消しの訴えにおいて、その判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において、現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外の無効原因については、右訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることは許されない(最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。

原告は、引用意匠が、原告先行意匠をほとんどそのまま自らの意匠としたものであり、先願意匠としての地位は認められるべきではないと主張するが、この点が審判段階では全く主張されておらず、審判手続において審理・判断の対象とされなかった事項であるあることは、当事者間に争いがないから、本件の審決取消訴訟において、新たに上記主張を違法事由として主張することは許されず、その内容の当否について検討するまでもなく、その主張は失当といわなければならない。

2  取消事由2(引用意匠の認定の誤り)について

意匠法における意匠とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起させるものであり(意匠法2条1項)、意匠の創作として秩序立てられた一つの全体形態としてのまとまりをいうのであるから、全体の中からその一部の態様に限定してこれを対比観察することは、許されるものではない。

したがって、意匠法9条1項の「同一又は類似の意匠」であるか否かの判断にあたっては、出願意匠と先願として引用された意匠との形態を全体として観察すべきであり、その意匠の一部の態様に限定して対比観察を行うべきものではない。仮に、引用意匠の一部の形態がその出願前に公知、周知であるからとして、これを類否判断の対象から除外するとなると、このような公知、周知部分がその大部分を占める出願意匠が、極めて微弱な引用意匠との差異により登録されることとなり、意匠的創作性のほとんど認められない意匠を登録保護することとなるから、明らかに不合理な結果に至ることとなる。

そうすると、引用意匠について、仮に、かご体の形状がその出願前に公知であったとしても、これを類否判断から除外して判断することは許されず、審決が、一部の態様に限定せず両意匠を形態全体として対比観察し類否判断した点に、違法不当な点はないといわなければならない。原告の主張は、採用できない。

3  取消事由3(本願意匠の認定誤り)について

本願図面(甲第2号証)によれば、本願意匠の堤げ手は、丸い棒状体のものであり、これを水平に置いた状態の底面の一部に断面U字形状の溝が形成されており、その溝幅(開口幅)は、水平に置いた状態の堤げ手の横幅の略1/4程度と認められる。そして、本件物品が整理かごであることを考慮すると、この堤げ手は、掌の中で2本を握れる程度のさほど太くないものであり、据え置かれて堤げ手を横に倒した状態においては、堤げ手の丸い周面だけが外側に表出し、上記断面U字形状の溝は、それが底面に位置することから通常は認識できず、堤げ手をかなり立ち上げた状態において、はじめて堤げ手に沿った一条の筋様のものとして認識できる程度のものと認められる。

したがって、本願意匠の堤げ手が略丸棒状のものではないとする原告の主張には理由がなく、審決が、上記堤げ手について、「略丸棒状のもの」(審決書3頁18~19行)と認定したことに誤りはない。

また、意匠の一部の形態における大小関係は、意匠全体を観察し、他の部分との対比においてなされるべきであるところ、本願図面中の「右側面図」によれば、本願意匠の手掛け孔は、上面を開口した略直方体状のかご体全体の幅及び深さに対して、いずれもかなり幅狭のものであり、両側面全体に対してもわずかな面積を占めるにすぎない小さなものと認められる。原告は、当該手掛け孔を人間の手と比較して小さいものではないと主張するが、人間の手に対して当該手掛け孔が大きいか小さいかは相対的・主観的な判断であって、どちらか一方の判断が正しいという性質のものでないことは明らかである。

したがって、原告の上記主張には理由がなく、審決が、上記手掛け孔について、「小さい」(審決書4頁9行)と認定したことに誤りはない。

さらに、本願図面中の「底面図」によれば、本願意匠の開口部の上縁の中よりに設けられた凹みの、上縁の端からの凹みの幅は、上縁幅に対して略1/5程度であり、この凹みを横断する「A-A断面図」においては、凹みは、同図面を拡大しない限りほとんど認識困難な程度の浅さと認められる。なお、出願図面中の参考図は、意匠の理解を助けるために必要があるときに提出されるもの(意匠法施行規則様式第5備考12、平成7年通商産業省令第57号による改正前のもの)であって、各部を分かりやすく誇張して表現することも一般的であることから、本願図面中の参考図によって、上記凹み幅を正確に測定することは妥当でないが、この参考図を参照しても、凹み幅は上縁幅に対してそれほど深いものではない。

したがって、本願意匠の開口部の凹みが上縁の幅の半分以上に及ぶとする原告の主張には理由がなく、審決が、上記凹みについて、「極浅い」(審決書4頁14行)と認定したことに誤りはない。

4  取消事由4(類否判断の誤り)について

本願意匠の上縁の凹みは、前示のとおり、上縁の幅と比較して極めて浅いものであるから、形態全体の中では目立たない部分と認められ、しかも、堤げ手を上縁の上に載置したときには、堤げ手の下面にそのまま重なり、看者が普通に目にすることは困難である。また、本件カタログ4(乙第4号証)によれば、整理かごと同様のプラスチック製の各種家庭用日用品の手掛け部品について、部品の下に縁部が当接する場合、当該縁部に浅い凹みを設け、指を掛けて持ち上げやすくする手法も、従来から一般的に行われてきたものと認められるから、上記の点が創作性の高いものとは認められず、意匠全体の中で特徴的な部分であるとはいえない。

したがって、審決が、本願意匠と引用意匠の差異点〈4〉について、「本願の意匠がかご体の短手方向の上縁の中寄りに凹みを設けたものであるが、その凹みは極めて浅く、目立たず、しかも堤げ手を倒した状態においては看者の目には殆どふれず、堤げ手に手を掛け易くするという実用上の働きはともかくとして意匠上においては形態全体に影響を与える程のものではなく、一方引用の意匠についても、該部の膨出の度合いも僅かで、その先端中程寄りが弧状に垂下する点を勘案してもなお従前のものに対しさほどの特徴のないものであって、この点についての差異は、形態全体としてみた場合、限られた部位における軽微な差異の域を出ず、類否判断を左右するほどのものではない。」(審決書6頁19行~7頁11行)と判断したことに、誤りはない。

また、原告は、本願意匠における堤げ手が、これを倒した場合、かご体の上縁の上にぴったりと載置されるように形成されている態様をとらえ、引用意匠との差異を強調する。

しかし、本件カタログ1~3(乙第1~第3号証)によれば、本願意匠のような、かご体の上縁の上に倒した堤げ手がぴったりと載置される態様は、整理かごと同様のプラスチック製の各種家庭用日用品のかご体の堤げ手として、従来よりごく一般的に見られる形態と認められるから、特に看者の注意を惹くものとは認められない。他方、別添審決書写し別紙第二によれば、引用意匠において、堤げ手の取付位置は上縁の直下であって、かご体の上部全体に跨がるほどのものではなく、回転中心から握り部までの堤げ手の長さとかご体の側縁までの距離はほとんど差がないから、堤げ手を両側に傾けた状態において、水平とはならないもののわずかな傾斜を有するにすぎないものと認められ、特に看者の注意を惹くものとは認められない。したがって、この点における本願意匠と引用意匠との差異が、意匠全体に与える影響は微弱なものというべきである。

したがって、審決が、本願意匠と引用意匠の差異点〈5〉について、「堤げ手の取付位置について、本願の意匠のように、堤げ手を上縁の上面に取り付け、倒した状態において上縁の上面にそのまま重なる態様としたものは、本願の意匠の出願前にも広く見られるところであり、本願の意匠独自の特徴ではなく、結局、この点についての差異も、両意匠について、堤げ手を、略丸棒状のものを略『コ』の字状に折曲した態様とし、これを2本、かご体の対向する長手方向の上縁中央に稍間隔を空けて起倒自在に、橋渡し状に設けた共通する態様の中での差異に止まり、その差異が類否判断に与える影響は微弱なものというほかない。」(審決書7頁16行~8頁7行)と判断したことに、誤りはない。

また、本願意匠の手掛け孔は、前示のとおり、かご体全体の幅及び深さに対してかなり幅狭のものであり、両側面全体に対してもわずかな面積を占めるにすぎない。しかも、両側面の略全面には小さな略正方形状の角孔が規則的に配列されており、略直方体状の角孔である上記手掛け孔は、これらの略正方形状の角孔よりはやや大きいもののその規則的な配列の中で同方向に位置していることから、意匠全体の中で特に看者の注意を強く惹くものとは認められない。さらに、本件カタログ5~7(乙第5~第7号証)によれば、プラスチック製の各種家庭用日用品のかご体においては、短手方向の周側面に略直方体状の角孔様の手掛け孔を設けることは、従来からごく一般的に行われてきたものと認められ、格別の創作性を有する特徴とはいえないことが明らかであるから、この点における本願意匠と引用意匠との差異は、両意匠の類否判断を左右するほどのものとはいえない。

したがって、審決が、本願意匠と引用意匠の差異点〈2〉について、「この種の整理かごにおいては、かご体の対向する側面上部に横長矩形状の小さい手掛け孔を配することは従来より普通に行われており、本願のものも極めて普通の態様で手掛け孔を配したまでのもので、看者の注意を特に惹くほどのものでなく、周側面の略全面に小さな略正方形状の角孔を規則的に配した両意匠の共通点に埋没する程度の差異に止まり、類否判断を左右するほどのものではない。」(審決書5頁15行~6頁3行)と判断したことに、誤りはない。

さらに、原告の主張する本願意匠の堤げ手の側面に断面U字形の凹溝が穿つように形成されている態様については、前示のとおり、本願意匠の堤げ手はさほど太いものではなく、そこに形成された凹溝は、堤げ手を横に倒した状態では認識できず、堤げ手をかなり立ち上げた状態において、はじめて堤げ手に沿った一条の筋様のものとして認識できる程度のものであり、しかも、本件カタログ1、2(乙第1、第2号証)によれば、プラスチック製の各種家庭用日用品の堤げ手においては、堤げ手に沿って溝を形成することは、従来からごく一般的に行われてきたものと認められ、創作性を有する特徴とはいえない。したがって、このような凹溝を有する堤げ手を右や左に倒したとしても、当該凹溝が格別看者の注意を惹くものとは認められない。

以上のとおり、差異点に関する原告の主張には、いずれも理由がなく、審決の認定する差異点はいずれも類否判断に与える影響が微弱であるというほかはない。したがって、審決の「これらの差異点を総合し相俟った効果を考慮したとしても、両意匠の類否判断を左右するほどの影響を及ぼすものとは認められない。」(審決書8頁7~10行)との判断に誤りはない。

そして、両意匠に共通する「上面を開口した略直方体状のかご体の周側面の略全面に、略正方形状の小孔を縦横に等間隔の格子状に配設し、上縁に略『コ』の字状の堤げ手を2本、橋渡し状に設けた」(審決書3頁1~4行)という、正方形状の小孔を格子状に配設したかご体と堤げ手が一体となった基本的構成態様は、本件物品の通常の日常生活における使用状態を勘案すると、強く看者の注意を惹くものと認められ、審決の認定したその他の具体的態様における共通点(審決書3頁5行~4頁2行)とともに、前記の微弱な差異点を凌駕するものと認められる。

したがって、両意匠の共通点は出願前に広く知られた形態であって看者の注意を惹くところではないとする原告の主張には、理由がなく、審決の「前記共通するとした・・・これら共通する態様が両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところと認められる。」(審決書8頁11行~9頁9行)との判断に誤りはない。

5  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成4年審判第10453号

審決

奈良県北葛城郡当麻町加守646の2

請求人 株式会社 吉川国工業所

大阪府大阪市中央区伏見町3丁目3番3号 芝川ビル2階1号 福島特許商標事務所

代理人弁理士 福島三雄

昭和63年 意匠登録願 第23998号「整理かご」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和63年6月工6日の本意匠を昭和63年意匠登録願第21206号とする類似意匠の意匠登録出願であって、その意匠は、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「整理かご」とし、その形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。

これに対して、当審が拒絶の理由として引用した意匠は、昭和60年7月15日に意匠登録出願をした昭和60年意匠登録願第30340号(平成2年2月9日に拒絶の査定がなされ、その後その査定が確定した。)の意匠であって、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「収納かご」とし、その形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。

そこで、本願の意匠と引用の意匠とを比較し、両意匠を全体として検討すると、両意匠は、意匠に係る物品が使用目的及び使用方法を同じくする同種のものと認められ、形態について、以下に示す共通点及び差異点が認められる。

すなわち、上面を開口した略直方体状のかご体の周側面の略全面に、略正方形状の小孔を縦横に等間隔の格子状に配設し、上縁に略「コ」の字状の提げ手を2本、橋渡し状に設けた基本的構成態様のものであり、その具体的な態様について、かご体は、開口部をやや横長の隅丸略方形状として、その周側面を下方に向かい漸次僅かに窄まるように形成した深さの稍深いものであって、周側面について、四隅を隅丸状とし、その上端閉口部周縁には、周側面を外方に幅狭略水平状に折曲した鍔状の上縁を形成し、周側面の上端部全周にやや幅を有する平滑帯状面を設け、底面寄りの全周に幅広の平滑帯状面を設けて、これらの間の広い幅の部分に、小孔と略等幅の桟を縦横格子状に設けて、小さな角孔が規則的に整列した態様のものとし、周側面と底面との陵部を隅丸状とし、底面に細幅で外形より一回り小さい台脚を設けてこれら全体を一体状に成型したものであり、提げ手は、略丸棒状のものを隅丸略「コ」の字状に折曲した態様とし、これを2本、かご体の対向する長手方向の上縁中央に稍間隔を空けて起倒自在に橋渡し状に設けたものである点において共通する。

一方両意匠は、〈1〉かご体の深さについて、本願の意匠が、かご体の横幅(長手方向幅)の3分の2弱の深さとしているのに対し、引用の意匠は、かご体の横幅と略等しい深さとし、本願の意匠が引用の意匠に比し稍浅いものである点、〈2〉かご体の短手方向の側面上部に、本願の意匠は横長矩形状の小さい手掛け孔を配しているのに対し、引用意匠は、手掛け孔を配していない点、〈3〉底面の台脚の内側について本願の意匠が、小孔を縦横に格子状に配しているのに対し、引用の意匠は、平滑面としている点、〈4〉かご体の短手方向の上縁について、本願の意匠は中寄りに、極浅い凹みを設けているのに対し、引用の意匠は、全体が緩やかな弧状に膨出し、さらにその先端中寄りを、浅い弧状に垂下させている点。〈5〉提げ手の形状及びその取付態様について、本願の意匠は、「コ」の字状の握り部に当たる部位を直線状とし、取付位置を上縁の上面として、倒した状態において提げ手が上縁の上面にそのまま重なり合う態様となるのに対し、引用の意匠は、握り部に当たる部位を緩やかな弧状とし、取付位置を上縁の下部としている点、に差異が認められる。

そこで、前記の共通点と差異点を総合し、両意匠を全体として検討すると、先ず差異点について、〈1〉の差異については、両意匠とも、深さを稍深いものとする点では共通し、そしてこの種物品の分野においては、収納物等に応じ、かご体等容器体の深さが決定され、本願のものの深さも、極めて一般的な深さのものであって、格別特徴あるものではなく、その差異は深さを稍深いものとした中での軽微な差異とせざるを得ず、類否判断に影響を与えるほどのものではない。〈2〉の差異については、この種の整理かごにおいては、かご体の対向する側面上部に横長矩形状の小さい手掛け孔を配することは従来より普通に行われており、本願のものも極めて普通の態様で手掛け孔を配したまでのもので、看者の注意を特に惹くほどのものでなく、周側面の略全面に小さな略正方形状の角孔を規則的に配した両意匠の共通点に埋没する程度の差異に止まり、類否判断を左右するほどのものではない。〈3〉の差異については、本願のものが底面の台脚の内側に小孔を配したものであるが、この種の深さの稍深いかご体を外観として観察する場合、底面は、視覚に与える影響が比較的弱い部位であることに加え、この種のかご体においては、底面に側面と同様の態様で小孔を配することは従来より極めて普通に行われており、本願のものについても、その態様は周側面と同形の小孔を、周側面と同方向、同間隔に規則的に整列したものであって、周側面とその調子を同じくし、看者に極めて似た印象を与えこそすれ、看者がこの点を特に注目する程のものでなく、結局、これらの差異は、周側面の略全面に、小さな角孔を規則的に整列した両意匠の共通する態様に吸収される程度のものといわざるを得ず、その差異は微弱で、類否判断を左右する程のものではない。また〈4〉についての差異は、本願の意匠がかご体の短手方向の上縁の中寄りに凹みを設けたものであるが、その凹みは極めて浅く、目立たず、しかも提げ手を倒した状態においては看者の目には殆どふれず、提げ手に手を掛け易くするという実用上の働きはともかくとして意匠上においては形態全体に影響を与える程のものではなく、一方引用の意匠についても、該部の膨出の度合いも僅かで、その先端中程寄りが弧状に垂下する点を勘案してもなお従前のものに対しさほどの特徴のないものであって、この点についての差異は、形態全体としてみた場合、限られた部位における軽微な差異の域を出ず、類否判断を左右するほどのものではない。そして〈5〉の差異につき、提げ手の形状について、握り部に当たる部位が直線状か弧状かの差異は、引用の意匠についての弧状も緩やかで、また提げ手の態様としては共に従来より極めてありふれた態様のもので、さらに提げ手の取付位置について、本願の意匠のように、提げ手を上縁の上面に取り付け、倒した状態において上縁の上面にそのまま重なる態様としたものは、本願の意匠の出願前にも広く見られるところであり、本願の意匠独自の特徴ではなく、結局、この点についての差異も、両意匠について、提げ手を、略丸棒状のものを略「コ」の字状に折曲した態様とし、これを2本、かご体の対向する長手方向の上縁中央に稍間隔を空けて起倒自在に、橋渡し状に設けた共通する態様の中での差異に止まり、その差異が類否判断に与える影響は微弱なものというほかない。そうして、これらの差異点を総合し相俟った効果を考慮したとしても、両意匠の類否判断を左右するほどの影響を及ぼすものとは認められない。

一方、前記共通するとした基本的構成態様、すなわち、上面を開口した略直方体状のかご体の周側面の略全面に、略正方形状の小孔を縦横に等間隔の格子状に配設し、上縁に略「コ」の字状の提げ手を2本、橋渡し状に設けた態様は、全体の形態の骨格を形成しており、これが、前記共通するとした具体的な態様、とりわけ、かご体の開口部をやや横長の隅丸略方形状として、その周側面を下方に向かい漸次僅かに窄まるよう形成した深さの稍深いものとし、その上端部全周にやや幅を有する平滑帯状面を設け、底面寄りの全周に幅広の平滑帯状面を設けて、これらの間の広い幅の部分に、小孔と略等幅の桟を縦横格子状に設けて小さな角孔が規則的に整列するものとした態様と相互に相俟って、形態全体の基調を形成しており、これが更にその余の共通点とも相俟って両意匠の共通感を看者に強く印象付けるところであるから、これら共通する態様が両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところと認められる。

以上のとおりであって、両意匠の共通点、差異点を総合すると、共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすのに対し、差異点は、類否判断を左右するほどの影響を及ぼさず、共通点が差異点を凌駕するものであり、両意匠は全体として類似するといわざるを得ないものである。

従って、本願の意匠は、その出願の日前に出願された引用の意匠に類似し、最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当せず、意匠法第9条第1項の規定により、意匠登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年8月26日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品 整理かご

説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる

〈省略〉

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 収納かご

説明 左側面図は右側面図と、背面図は正面図と同一に表われるため省略する。

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例